2016年10月13日、タイのプミポン国王陛下が逝去されました。70年4か月も現役の国家元首として務め、その在位期間は世界最長です。現在はプミポン国王陛下のご長男であるワチラロンコン皇太子が新国王に即位されました。
私がタイに本格的に住み始めたのは2007年のことでした。街を歩いていると、プミポン国王の写真や肖像画をよく見かけます。
タイ人の着ているシャツやアームバンドに「Long Live the King(王様万歳」や「We Love Our King(私たちは王様を愛しています)」などが書かれています。
タイ人が王様をとても愛していることは知っていたのですが、私が想像しているよりもっと深くタイ国民がプミポン国王を愛していたことを知ったのは、国王が逝去されてからでした。そしてプミポン国王がなぜこんなに国民に愛されたのかも初めて知りました。
今回は、プミポン国王とタイ国民の深い愛についてまとめてみました。
プミポン国王はどんな王様だったのか
プミポン国王は王座に腰を掛けて指示を出しているだけの王様ではありませんでした。国王自らタイ全土に出向き、視察して回りました。国民と直接話し、国民の生活を知り、貧困地域の国民を貧困から脱却させるために「ロイヤルプロジェクト」を立ち上げました。
従来の農業や食品加工に新技術を取り入れて品質の高い製品を産出し、タイ国を発展させ国民の生活を向上させることが目的でした。
ロイヤルプロジェクト製品は現在でもとても人気があり、スーパーやコンビニでも手に入ります。観光客がお土産に買って帰ることも多いです。プミポン国王が国民に尽くす姿を見て、国民は国王を尊敬するようになりました。
プミポン国王のパワーは絶大で、政治的暴動が起こって流血騒ぎがあった際には国王の一言で鎮静化されたそうです。
タイでは度々政治に絡んだ暴動が起きますが、国民の心の中には「最終的には国王が解決してくれる。」という思いがありました。プミポン国王はタイ国民が絶大な信頼を寄せる、慈悲深い王様なのです。
国王は第2の父
プミポン国王がどんなに国民のために尽くしているかは幼稚園の子どもたちにも教え伝えられます。
プミポン国王は1997年にタイバーツが大暴落して「アジア通貨危機」に陥った時に、自立的・持続可能な経済成長を目指す「Self-sufficiency(足るを知る経済)」の概念を提唱しました。タイ人の経済活動に大きなインパクトを与えたこの概念は子どもたちの教育にも取り入れられました。
私が働いていた学校には子どもたちが描いた「Self-sufficiency」のポスターや王様の絵が貼ってありました。子どもたちは王様の話を聞いて育ち、王様が目指しているものを一緒に目指し、いつも王様が近くにいるような感覚で育ちます。王様の存在は第2の父のようだと言えるでしょう。
国王カラーは黄色
私がタイに住み始めたころ、黄色いシャツを着たタイ人がたくさんいたので、タイ人は黄色が好きなんだと思っていました。しかしそれには理由がありました。
タイでは生まれた曜日が大切で、誰に聞いても自分が何曜日に生まれたかを知っています。この生まれた曜日で占いをしたり、ラッキーカラーを身に着けたりします。
各曜日は色が決まっていて、月曜日=黄色、火曜日=ピンク、水曜日=緑、木曜日=オレンジ、金曜日=水色、土曜日=紫、日曜日=赤となっています。
プミポン国王は月曜日にお生まれになったので、王様に敬意を示すために黄色のシャツを着る人が多いのです。特に月曜日は黄色い服を着ている人がたくさんいて、公務員は黄色いシャツを制服として着ています。
またシリキット国王妃が金曜日にお生まれになったので、金曜日に水色のシャツを着ている人もよく見ますし、黄色と水色混合の服を着ている人もいます。
国王逝去の知らせ
プミポン国王の逝去の知らせで、タイ国内はまるで色を失ったかのようでした。その日を境にタイ国民は全員黒い喪服に身を包み、王花であるマリーゴールドが各家に飾られ、国王を偲びました。
国王の葬儀には国内外から20万人もの人が詰めかけ、タイ各地にある主要寺院にも献花台が設置され、1700万人もの人がプミポン国王を追悼しました。テレビでは連日王様の人となりや業績を称える番組が放送されていました。
タイは国王が崩御された日から1年間喪に服すことになりました。政府関係者は1年間喪服を着用となりましたが、一般の人も長い間喪服で過ごす人が多かったです。
国王逝去の知らせで、タイ人はまるで近い身内の人が亡くなったかのように悲しんでいました。その姿に改めて国王はみんなに愛されていたんだなあと気づきました。
その1年間はフェスティバルやお祭りなど大騒ぎするものは中止になるか、ひっそりと小規模で行われました。街中でも音楽をガンガンかけたりすることもなく、国全体しんみりとしていました。
旅行などで訪れる時に注意したいこと
不敬罪がある
国民の愛する王様を侮辱したり、王室を批判したりすれば不敬罪に問われます。
タイでは朝晩2回公的施設や映画館で国歌が流れますが、このときその場にいる人は起立して歌が終わるまで「気を付け」の状態でいなければなりません。それをしないと不敬罪とみなされる可能性もあります。
SNSで王室批判の書き込みをした人が実際に捕まって禁固刑に処された人もいます。タイの不敬罪は本当に厳しくて、どんな場合であっても「王室に対する批判だ!」とみなされたら、最長15年の禁固刑が科せられます。
実際に危なく不敬罪になりそうだった行動
それは私もよくわかっていたつもりですが、ちょっとした不注意な行動が不敬罪に当たりそうになり驚いた出来事がありました。
タイ人の家には必ず王様の写真が飾られています。私はペットの犬を溺愛していて壁にペットの写真をたくさん貼っていました。
王様の写真も貼っていたのですが、その位置が犬の写真よりも下にあったのでそれをみたタイ人が怒って犬の写真を剥がしてしまいました。王様の写真を部屋に飾る場合は位置に気を付けましょう。
またこんなこともありました。本屋さんの壁にいろんなタイプの王様のカレンダーがかかっていました。私はお土産に王様カレンダーを購入したいのでどれにしようか迷っていました。
「あれとあれ、どっちがいいと思う?」と隣にいた友人に指をさしながら聞きました。すると、店員さんに指を押さえられ、「指を差しちゃダメ!」と叱られました。もちろん王様を指さしたつもりはありませんが、誤解を招くようなので指さしには気を付けてください。
まとめ
いままで私は「王様を敬愛する」というと、勝手な発想かもしれませんが、独裁国家の君主を、半ば強制的に敬愛させられるというようなイメージでした。
タイ人はマインドコントロールやブレインウォッシュされて国王を崇拝しているわけではありません。プミポン国王は絶対的な存在であると同時に、大切な家族の1人のような、タイ国民が愛してやまない存在です。
国民のために尽力し、タイ国民に最も尊敬された偉大なプミポン国王は、これからもタイ人の心の中に生き続けるのでしょうね。