私は2011年にタイで出産をしました。タイと言っても首都のバンコクではなく、北タイのチェンライという小さな町の病院で出産しました。
チェンライには大きな病院が2つありますが、チェンライの人たちは大きな病気にかかったり、難治性の高い病気を患ったときにはバンコクやチェンマイの病院にわざわざ行きます。
正直なところきちんと設備が整って、日本人の妊婦さんをたくさん受け入れている大きな病院で出産しようかとも考えました。
しかし、母体である私の体に何か異常があるわけでもなく自然分娩が十分可能であったことと、出産は毎日何十件と行われているので医者も看護師も経験豊富なことからタイ・チェンライで出産することを決意しました。
妊娠発覚から出産して退院するまでをまとめてみました。
妊娠発覚!
気づかなかった妊娠
信じられないことかもしれませんが、私は妊娠6か月になるまで妊娠に気づきませんでした。というのは、私は不妊と日本の医者から言われていて、不妊治療しても妊娠できるかどうかわからないと言われていたからです。
もともと生理不順で、生理がなかったことも不思議ではありませんでした。子宮のあたりがズンズンと疼くようになり、勝手に子宮筋腫か卵巣嚢腫かもしれないと思い込んでいました。
その「筋腫らしきもの」がどんどん大きくなりお腹もゴロゴロして来て、「手遅れになるかもしれない」とやっと病院に行きました。
人生が180度変わるような日
「妊娠しているんじゃないんですか。」と看護師や医者に聞かれましたが、自信を持って「いえ、してないです。」と答えました。それでも一応尿検査を受けてみることになりました。
「妊娠していますよ。」と検尿後診察室に入るや否や医者が言いました。私はあまりの突然の真実に言葉を失ってしまいました。
エコー室に入りお腹にゼリーのようなものを塗られました。「こう言うのドラマで見たことがあるなあ」と思っていると、医者がスクリーンに映し出された私のお腹の赤ちゃんを見て「オー!ベリービッグ!よくここまで気が付かなかったね。」と驚いて失笑していました。
よくドラマの中で「ここに見えるのが赤ちゃんの足ですよ。」などと聞きますが、説明がいらないくらいはっきりと手足を広げているのがわかり、大きくてスクリーンからはみ出しそうでした。
「予定日は11月24日です。」と言われ、「今年中に生まれるんですか!?」と驚いて聞いてしまったことを今でも覚えています。
1日にして人生が180度変わるような出来事が起こり、心と頭がなかなかついていけなかったのですが、自分のお腹に命が宿ったことがうれしくてたまりませんでした。
出産まで
順調な妊婦生活
それから週に2回検診を受けました。子宮がズンズン疼くのは赤ちゃんの頭がぶつかっているからで、お腹のゴロゴロは胎動であることもわかり、赤ちゃんが元気に育っている証拠でした。
つわりも何もなく、お腹もあまり大きくなりませんでした。最初から少々お腹が大きかったので、出産するまでほとんど誰にも気づかれませんでした。体重も6~7キロくらいしか増えませんでした。
妊娠糖尿病の検査
至って順調だったのですが、1度だけ検診でひかかったことがあります。血糖値が高すぎて妊娠糖尿病の恐れがあり、再検査することになりました。
12時間ほど絶食をして翌日の検査に臨みました。お腹が空いてふらふらになりながら病室のベッドに乗せられ血液を採取されました。それから砂糖水を500ミリリットルくらい飲まされました。
これは「経口ブドウ糖負荷試験」というのもので、糖分を取る前、砂糖水を飲んだ1時間後、2時間後の血液を検査して、血糖が順調に下がっていくかどうかを調べるテストです。
日本でも妊婦さんがよく受ける試験ですが、砂糖水はこんなにたくさん飲まされません。検査は無事に済み、私の血糖値にも問題がないことがわかりました。
前回血糖値が高かったのは前日に夕飯をドカ食いしてしまったからでした。それ以降検診の前日は夕食は早い時間に少なめに食べて、当日の朝食は抜いて検診に臨みました。
よりにもよって病院の隣はおいしいケーキ屋があり、空腹の私は「帰りに絶対食べてやる!」とケーキ屋を横目に通り過ぎ検診を受けていました。
出産の方法の傾向
それから妊娠後期に入り検診も1か月に1回になりました。足のつりがひどいこと以外は何も問題はありませんでした。どこにも異常が見られないので自然分娩をすることにしました。
タイでは自然分娩をする人があまりいなく、妊婦さんの75%が帝王切開で出産します。その理由の1つは出産日を指定できることです。占いなどを見て縁起のいい日に出産したいと思う人もいます。
また分娩の痛みを経験したくない、膣の回復が遅れるのが嫌だと思う人もたくさんいます。「自分のお腹を痛めて産んだ子」という概念にこだわるタイ人はあまりいません。
私も「出産法はどうであれ、自分の子に違いない」と思うほうなのでこだわりは特になかったのですが、自然分娩の方が回復が早いということで自然分娩を選びました。
いよいよ出産!
破水した当日
予定日を3日過ぎた11月27日のことでした。体の調子も良かったので、産休は取らずいつも通り仕事をしていました。ふと椅子から立ったときに破水しました。
私はもう入院する準備もしっかりできていたので、慌てることなく迎えの車が来るのを待ちました。私の周りの人の方が破水した私を見て慌てふためいていました。すぐに赤ちゃんが生まれてきてしまうと思ったのでしょう。
まだ陣痛らしきものも一切なく、気分的にはいつもと何も変わりませんでした。
病院に着くと分娩を待つ妊婦さんが集められた部屋に通されました。私のほかに4~5人ベッドに横たわって、「うーんっ!うーんっ!」と陣痛に耐えていました。
私も出産の準備万端でベッドで横になっていましたが、子宮口は4センチ開いているのにぜんぜん赤ちゃんは降りてきませんでした。
帝王切開への切り替え
しばらくすると医師が来て、赤ちゃんの具合を見ながら私に言いました。「赤ちゃんに何か問題があるかもしれないし、悪い菌が入る恐れもあるので帝王切開に切り替えます。」赤ちゃんの命が第1なので私もすぐに同意し手術室に上がりました。
下半身に麻酔をし、手術が始まりました。痛みはありませんが、お腹を引っ張られているのが少しわかりました。麻酔が下半身以外にも効いているのかふわふわと半分夢の中にいるようです。
おそらく20分もかからないうちに、大きな産声が聞こえてきました。「健康な男の子ですよ。」と言われると涙が込みあがってきましたが、「無事でよかった!」という安心感の方が強かったです。それからすぐに全身麻酔をして手術が終わりました。
とっとと退院!
出産の翌日から動き回る
11月27日の夕方に出産をして、翌日の朝医師が来て「早く起き上がって、できるだけ動き回ってください。」と言いました。その方が腸が早く正常に戻り、食事もとれるということでした。お腹の痛みは筋肉の痛みで傷口が裂けるという心配はないそうです。
日本では帝王切開をすると2週間近く入院するそうですが、タイは2泊3日です。早く動き回れるようにならないと、次の日にもう退院なのでゆっくり寝ている余裕はありません。
赤ちゃんにはすぐに会えない
日本ではお母さんは出産してすぐに赤ちゃんを抱かせてもらえますが、私が生んだ病院ではさせてもらえませんでした。私が赤ちゃんに初めて会ったのは生んだ次の日、24時間以上たってからでした。
「早く赤ちゃんに会いたいなあ」と思いながら、部屋の中をゆっくりグルグル歩き回っていました。「赤ちゃんを見たいんですけど」と頼んでも退院するときまではダメだというのです。その理由は今もってよくわかりません。
保育室の赤ちゃんを覗けるようにもなっていないし、1度赤ちゃんを保育室から出すと戻せないと言うのです。
だんだん不安になって来て、赤ちゃんにどうしても会いたいと言うと「わかりました。赤ちゃんを連れてきます。その代わりお母さんがすべて面倒見てください。」と看護師に言われました。もう少し体を休めたかったですが、赤ちゃんが隣にいてくれた方が良かったので承諾しました。
しばらくすると赤ちゃんが部屋に入って来て、初対面です。おくるみに包まれてスヤスヤ寝ている顔が可愛くて仕方ありませんでした。それからすぐに沐浴の仕方を習いました。息子はワンワン泣き叫んでいました。そして翌日無事に退院しました。
出産費用について
検診の費用
私は日本の国民健康保険に入っていなかったので、出産一時金を頂くことはできず、すべて実費でした。私は妊娠が発覚したのが6か月の時なので検診は最初の2か月が月2回、後半2か月は月1回でした。検査内容はその時で違うので平均すると1回3000円くらいです。
病院の費用
出産においては自然分娩パッケージと帝王切開パッケージがあります。内容は、お産代、薬代、部屋代、食事代など入院から出産して退院するまでにかかる費用がすべて含まれています。
それに赤ちゃんの産着セット、哺乳瓶、粉ミルク、毛布、授乳用クッション、タオル、おくるみ、お母さん用の部屋着や産褥パッドみたいなものまで全部ついていました。
部屋も大きな個室でトイレとシャワー完備、冷蔵庫もテレビも付いていて、大人が2人くらい寝られるようなソファーが付いていました。
自然分娩パッケージは1泊2日で約55000円、帝王切開パッケージは約10万円でした。私の場合緊急帝王切開になったことと、出産したのが日曜日だったので1万円程上乗せされ約11万円払いました。
バンコクで出産していたら40~50万円かかっていたと思います。私は私立病院で出産しましたが、公立の病院ならば料金は半額くらいになるでしょう。ただ患者が多いので検診も出産も長時間待たされることになります。
ちなみにタイ人ならば公立病院で出産する場合はすべて無料です。産後の予防接種等も無料です。
まとめ
「案ずるより産むが安し」と言いますが、私のお産もその通りでした。結局陣痛の痛みもなく、生みの苦しみも味わうことなく、仕事をしていた3時間後に出産しました。そして生んだ翌日から普通に育児開始というスピーディな出産でした。
チェンライの病院でも出産に関しては医者も看護師も本当に手際よく何の問題もありませんでした。帝王切開の傷口もほとんど痛まず回復も早かったです。もし2人目ができても同じ病院で産むつもりです。
私は無事に出産できたのでチェンライで産んでよかったと思いますが、もし持病があったり、妊娠中毒症など危険な状態になっていたらバンコクの大きな病院に移っていたかもしれません。ご自身の体調や経過をよくみながら病院を選ぶことが大切です。