タイに住み始めて12年目になりました。私はタイ語を学校で勉強したことがなく、12年経った今でもタイ語はあまりよくわかりません。それでもタイで生活していると、よく使われるタイ語のフレーズは自然と覚えてしまいます。
タイ人が度々口にする言葉「グレンジャイ」は「遠慮する」と言う意味で、私がタイに来てすぐ覚えた言葉です。
それまで「遠慮する」と言う感覚は日本独自のもので、他の国の人とこういう感覚を共有するとは思ってもいませんでした。英語圏に行くことが多かったので、常に「Yes」か「No」をはっきりさせなければいけない習慣が身についていました。
久しぶりに「遠慮する」と言う言葉を耳にして、とても懐かしいような気持ちになりました。
しかしタイ語の「グレンジャイ」は日本語の「遠慮する」とは全く同じと言うわけではありませんでした。私はこの「グレンジャイ」と言う言葉に随分振り回されて嫌な思いを何度となくしてきました。ここではタイ人がどんな場面で「グレンジャイ」を使うのか紹介します。
日本人と同じ遠慮のグレンジャイ
まず最初は日本人が共感できると思われるタイ人の「遠慮」についてです。他の人に何かしてもらうことに対してすべて「グレンジャイ」と思うようです。
日本人の「遠慮」の感覚とよく似ていますよね。「わざわざそんなことをしてもらって申し訳ない」と言う気持ちは日本人もタイ人も同じようです。
例えば、タイ人を家に招待した時に「コーヒーを飲みますか。」と聞いても、「グレンジャイ」と答え「水で結構です」や「何もいりません」と言う人がほとんどです。レストランでご馳走するとき、プレゼントを渡すときもタイ人は「グレンジャイ」とよく言います。
言葉通りに遠慮しているのか、実際にいらなかったり、困ったりするので丁寧な断りとして言っているのか判断できないときは、私は「グレンジャイ」と言われたときはそれ以上は勧めません。
建前のグレンジャイはわかりにくい
日本人と同じ「遠慮」の心を持つタイ人ですが、タイ人の使う「グレンジャイ」は控えめな気持ちから来るものばかりではありません。
タイ人は本音と建て前をしっかり使い分ける傾向があります。もちろん本音と建て前は日本人の間でもあります。
しかしタイ人は相手の気持ちを害することをとても嫌がり、極力そういう場面を避けようとして、「建前」でやり過ごすことが多いのです。その建前に「グレンジャイ」が使われます。
例えば、あるタイ人の友人があまり親しくない人から食事に誘われました。友人は行きたくなかったのですが断れずに「行く」と言ってしまいました。結局友人は食事をすっぽかしました。相手には「すっかり忘れてた。ごめんね。」と嘘を言っていました。
私は友人に「なんで最初から行かないって言わないの?」と聞くと、「せっかく誘ってくれたのに、断るのはグレンジャイ。」だと言うのです。相手の気持ちを害することだけでなく、相手を怒らせて自分の評価を下げることも避けたいと思っているようです。
しかしこの考え方は日本人を始め外国人にはなかなか通じないものです。私もこれが理由で何度となく「タイ人とは合わない」と憤慨したこともありました。
タイ人はよっぽど親しい間柄じゃないと、誘ったり、誘われたりする会話はその場だけのもので、実行されることはあまりないです。誘っておいてなかったことにする人も多いです。今では社交辞令の会話と割り切って振り回されないようにしています。
説明が面倒でグレンジャイ
何かを説明することが面倒で、グレンジャイでやり過ごすこともたくさんあります。それは正直なところ、腹が立つような場面もたくさんあります。それはただ単に思いやりが欠けているだけのような気がしてならないからです。
私が山岳民族が通う小学校で働いていた時のことです。山岳民族はクリスチャンが多いこともあり、クリスマスをお祝いする習慣があります。タイは90%が仏教徒でクリスマスのお祝いをしないのが普通ですから、珍しいことです。
私もクラスでクリスマス会をしようと3週間前から、飾りを作ったり、子どもたちも作れるハンディクラフトの準備をしたりしていました。100人分のクラフトを用意しなければならなかったのでクリスマス会の当日ギリギリまで準備をしていました。
クリスマス会当日はちょうどクリスマスイブの日でした。学校に行くと生徒が誰もいません。先生も半分くらい来ていません。「生徒たちはいつ来るんですか。」と尋ねると「今日はみんな教会に行っているから来ないよ。」と言うのです。物凄くショックでした。
生徒たちが来ないことではなくて、私がこの3週間クリスマス会の準備をしているところを見ていた先生たちが誰も私に教えてくれなかったことがショックでした。
みんな「グレンジャイ」で言えなかったというのです。腹が立ってたまりませんでした。結局説明するのが面倒くさかっただけで、「グレンジャイ」で済ませようとしたことが許せませんでした。でもタイでは怒りを表してはいけないので、そこはこらえてやり過ごしました。
自宅やパーティへ招待した時のグレンジャイには要注意
パーティなど、自宅に招待する場合も、グレンジャイには注意が必要です。タイ人は「行く」と言っても当日ドタキャンしたり、「たぶん行く」など曖昧な返事をしたりすることがよくあります。
食事や飲み物など多めに用意して余っても平気と思うぐらいの心の余裕がないとやってられません。来るか来ないかはっきりしてよといつも思いますが、はっきりしないのがタイ人だと思った方が気が楽です。
私の息子の1歳の誕生日に、日ごろお世話になっている人を呼んでバースデーパーティーを開くことにしました。タイ人の友人には10人くらい声をかけました。
「誕生日会に来てね。」と私がかけた言葉に対して「Thank you.」や「Ok.」、「グレンジャイ」の3通りの言葉が返ってきました。どの答えも来るのか来ないのかはっきりしません。
そして誕生日会当日、私は一応声をかけた人数分の食事やケーキを用意しました。声をかけたうち来てくれたタイ人は3人でした。来てくれた3人も「グレンジャイ」と言って食事に手を付けてくれません。
ちなみに声をかけたイギリス人、アメリカ人、日本人の友だちは来てくれて食事もケーキも食べてくれました。
結局食事もケーキもたくさん余ってしまい、腑に落ちない気持ちが残りました。後で「グレンジャイで行かなかった」とタイの友人はみんな言うのですが、私としては「準備する人の気持ちも考えてよ。」と言うのが本音でした。
タイ人の「遠慮」はするけど「気を使わない」ところ
タイ人はとても遠慮深いですが、この遠慮深さに似つかわない言動や行動をする時があります。食べ物に対しては意外とシビアです。
タイ人を食事に招待した時は、とても遠慮がちに席についているのですが、出された食べ物に対しては「おいしくない。」「味がない。」と割と平気でコメントしたり、「おいしい。」と言いながら全然食べなかったりします。
お土産でお菓子などを渡しても「堅すぎる。」「口に合わない」などマイナスなことを言う人、ひどい時は捨てる人もいます。とても遠慮がちに受け取って、食べて「まずい。」というタイ人のギャップに驚かされます。
こういう人がすべてではありませんが、よく遭遇するパターンです。これはタイ人の考え方なんだ、文化なんだと受け止めようとすると自分のストレスにしかならないので、こういう人たちとは友だち付き合いはしません。
その一方で彼らはこういう1面があるけれど、いいところもたくさんあると認め、ある程度距離を持って接しています。
まとめ
タイに12年住んだ私でも、タイ人の「グレンジャイ」が一番苦手です。「グレンジャイ」ですべて切り抜けようとして卑怯だなと思うことが度々あるからです。
今もってなかなか受け入れがたい考え方ですが、上手に付き合っていけるようにはなりました。まずタイ人を招待した時に曖昧な答えが返ってきたときはすべて「No」なんだと解釈しています。Yes かNoか答えを迫らないようにしています。
お土産のお菓子もちょっと変わったものではなく、タイ人に人気の抹茶系のお菓子に統一するようにしました。とにかくタイ人に「グレンジャイ」と言わせる機会をあまり作らないようにしています。
タイ人の「グレンチャイ」の使い方に気を付けて、タイ人と上手く人間関係を築いてください。