私の息子は3歳から6歳までタイのモンテッソーリスクールに通っていました。モンテッソーリ教育は従来の教育法と違うオルタナティブ教育の1つです。あまり日本にはなじみがなかったのですが、藤井聡太棋士がモンテッソーリ幼稚園に通って最近一気に注目を集めるようになりました。
今回はタイのモンテッソーリスクールに息子が実際通って感じたことをまとめてみました。
モンテッソーリ教育概要
モンテッソーリ教育とは、子どもの発達段階や時期に合わせて、子どもの自立的な成長を支援するという教育法です。世界各国の幼稚園で取り入れられている教育法ですが、特にアメリカやヨーロッパにはモンテッソーリの幼稚園、小中学校がたくさんあります。
「5歳になったらこれをできるようにしましょう。」のように大人が先回りして子どもに教えるのではなく、子どもが興味を持ったことをとことんさせたり、子ども自身が自分で考えて学べるように周囲の大人がサポートしたりするという特徴があります。
日本にもモンテッソーリ幼稚園がたくさんありますが、どれだけモンテッソーリ教育を取り入れているかはその幼稚園によります。
100%モンテッソーリ教育を実施している幼稚園はあまり多くなく、従来の教育法と半々または1部モンテッソーリ教育を取り入れている幼稚園などがほとんどです。
タイではモンテッソーリ教育がとても人気があり、100%モンテッソーリ教育を行っている幼稚園も多いです。従来のタイの詰め込み型教育に疑問を持った人たちが自分の子どもをモンテッソーリ幼稚園に通わせています。
モンテッソーリ教育とは
モンテッソーリ教育は、マリア・モンテッソーリというイタリアの精神科医が知的障害のある子どもたちとかかわりを持ったことがきっかけで生まれました。マリア・モンテッソーリは手先の運動と子どもたちの知能レベルの関係に注目し、独自の教育法を展開しました。
モンテッソーリ教育では子どもが生まれ持つ「成長する力」を信じて、のびのびと活動することを援助します。親や先生が子どもたちに対して何か教え込むわけではなく、遊びの中で発達を促します。
モンテッソーリ教育ではオリジナルなカリキュラムと教具を使います。教室の中には様々な種類の教具があり、子どもたちが自分で選んで使うことができます。教具には、手先の動きを活発にするもの、思考力をつけるもの、日常生活に役立つもの、五感に働きかけるものなどがあります。
「子どもの自立心を大切にし、自発的に考える力を養っていく」ことがモンテッソーリ教育の目的です。
タイの従来の教育とモンテッソーリ教育の違い
タイの従来の教育は日本の教育にとても似ていて、クラスのみんなで歌ったり、絵をかいたり、クラス全員で同じことを行うことが多いです。
モンテッソーリの幼稚園では、みんなが一斉に同じことをすることはなく、子どもたちは個別に自分が選んだ活動ができます。絵を描いている子、算数の計算をしている子、縫物をしている子、みんなばらばらです。
好きなことに好きなだけ没頭できるので集中力と創造力が養えます。先生は教えるというより、子どもたちが自力でやろうとしていることをサポートする程度です。
タイの従来の教育は集団行動を重視していて、モンテッソーリ教育は個性を重視していると言えます。
幼稚園での1日
朝8時半、教室の入り口で担任の先生が生徒1人1人と握手をしながら朝の挨拶をして、教室に迎え入れます。モンテッソーリ幼稚園はクラスが縦割りで、年少から年長までの子どもたちが同じクラスにいます。授業はすべて英語です。9時から11時半までは「お仕事」の時間です。
モンテッソーリ教育では、生徒たちが自分の好きなモンテッソーリ教具を使って行うアクティビティーを「お仕事」と呼びます。教室は広々としていて5つのセクションに分かれています。
1つ目は日常生活の練習をするところです。小さな洗い場で食器が洗えるようになっていたり、小さなほうきと塵取りで掃除ができるようになっていたりします。サンドイッチを作ったり、オレンジジュースを絞ったりするコーナーもあります。
2つ目は感覚教育のセクションです。視覚、聴覚などの5感の発達を促す教具が置いてあります。3つ目は言語教育です。アルファベットや単語、文法などを学べる教具があります。
4つ目は算数教育です。モンテッソーリ教育の算数は独特で、棒やビーズを使って感覚的に数字をとらえるのだそうです。幼稚園でも10,000までの位を習ったり、掛け算や割り算の概念も習っていました。
5つめは文化教育で、地理、歴史、地学、生物、美術に関するセクションです。世界地図や国旗、太陽系の模型、動植物の成長過程などの教具がおいてあります。
11時半なると「サークルタイム」といって、みんなで輪になって歌を歌ったり、お話をしたりする時間です。「ミステリー・リーダー」といって父兄の1人が変装して読み聞かせをすることもあります。ちなみに私は折り紙を教えに行ったことがあります。
12時はランチタイムで、息子の幼稚園は給食です。カオマンカイ(タイ風チキンライス)やパットシゥユー(米麺のタイ風焼きそば)など全部タイ料理です。
13時からは、年少はお昼寝、年中以上はタイ語の勉強です。金曜日だけは体育の時間になります。14時から45分間は自分の好きな「お仕事」をします。
14時45分はおやつの時間です。ほとんど果物です。たまにバナナチップスやトウモロコシやサツマイモをゆでたものがでます。砂糖を使ったおやつは絶対に出ません。
14時45分から生徒たちは家に帰ることができます。16時15分までなら学校で遊んでいてもかまいません。
以上がモンテッソーリスクールの1日です。
モンテッソーリスクールに入って良かったこと
実際に息子がモンテッソーリ幼稚園に通って良かったことの1つは集中力がついたことです。うちの息子はあちこち動き回って1つのことに集中できないタイプでしたが、好きなことは座って黙々とやるようになりました。好きじゃないことに関しては今でも集中できません。
2つ目は先生の話がちゃんと聞ける、授業中は静かにするものだとしっかりわかっていることです。私はいろんな幼稚園や小学校に通っている子たちが集まったクラスで教えていますが、その違いは顕著に表れています。
ローカルの学校の子どもたちは授業中席に着かない、走り回る、お菓子を食べるなどやりたい放題です。私の息子はかなりやんちゃなタイプですが、授業中は席について、しっかり授業に参加できるようになりました。
3つ目は、縦割りクラスなのでクラスメートと兄弟のような関係ができます。息子は一人っ子なのでこれはとても助かりました。年上の子どもたちにいろいろ教えてもらったり、年下の子を面倒見てあげたりといい人間関係を学びました。
モンテッソーリスクールに入って良くなかったこと
モンテッソーリ教育はどの子にも適しているわけではありません。おとなしくて静かで黙々と自分の「お仕事」ができるタイプはモンテッソーリ教育は最適です。
私の息子は元気いっぱい走り回るのが大好き、戦いごっこが大好きなタイプなので、幼稚園では問題児扱いでした。最初の1年は親が何度も呼び出されました。
まず息子の幼稚園では戦いごっこ禁止、ブランコの立ち乗りは禁止など男の子が好んでしそうなことはすべて禁止でした。家で戦隊モノやヒーロー系の番組を見るのも禁止されました。子どもが悪い影響を受けて暴力的になるからだそうです。
私はこの考え方に大反対でした。ウルトラマンや仮面ライダーを見て子どもたちが暴力的に育ったとしたら、今頃日本という国は潰れていると思います。
日本の男の子たちのヒーローは正義を守るために戦っています。やみくもに暴力的なわけではありません。子どもに悪影響が出るという考え方は間違っていると思います。
息子はウルトラマンが大好きで、いつもウルトラマンの真似をしていました。私は息子にウルトラマンが禁止になったことを伝えました。そして「でもウルトラマンをこれからも見たかったら、幼稚園をやめてもいいよ」と息子に言いました。
私は幼稚園は絶対行かなくちゃいけないとは考えていなかったので、息子が嫌ならやめてもいいと思っていました。
ただ息子に幼稚園をやめるメリット・デメリットを考えさせました。「幼稚園をやめたら好きなだけウルトラマンごっこをしていいけど、1日中家にいてお友達には会えなくなるよ。どうする?」と息子に聞きました。
すると「ウルトラマンやめる」と答えました。幼稚園では戦いごっこをしないように言い聞かせましたが、家ではウルトラマンを見せていました。
このように元気いっぱいで動き回るのが大好きな子はモンテッソールスクールはあまり合わないかもしれません。
息子もモンテッソーリ教育に適さないタイプですが、本人が注意されても、いいか悪いか、全く凹まないタイプなので、私としては本人が良ければいいかとそのまま続けることにしました。
幼稚園を変えたがるタイ人の親
タイ人は幼稚園や学校をコロコロ変えます。1学期だけ子どもを行かせて、ちょっと気に入らなかったら次の幼稚園に変えるのが当たり前のようです。学期が変わるたびに何人か生徒がいなくなります。3年間で3~4回ぐらい幼稚園を変えるタイ人の親はざらにいます。
モンテッソーリはおとなしいタイプの子が適しています。元気な暴れん坊タイプの子どもたちは先生に注意されることが多くて、それが嫌で「幼稚園に行きたくない」と言い出す子もいました。そういう子どもたちはみんなやめてしまいました。
だからやんちゃな息子の友だちはみんないなくなって、息子が幼稚園で唯一の問題児みたいになってしまいました。私も幼稚園を変えようとしたこともありますが、変えたところでまた何か違う問題が出てくるだろうという結論に至り、息子が大好きな幼稚園を続けることにしました。
まとめ
私はモンテッソーリは素晴らしい教育だと思いますが、他の教育法と比べて群を抜いて優れていると感じたことはありません。例えば競争心や協調性が学べるなど、従来の教育の方がいいと思うところもたくさんあります。
モンテッソーリ教育はオルタナティブ教育の1つであって唯一ではありません。どの教育法が合っているかは子ども次第です。
タイで子どもを学校に通わせる場合は、「モンテッソーリ教育が素晴らしいから」という理由だけで学校を決めないでください。自分の子どもがモンテッソーリの教育法に合っているかどうか見極めることが大切です。